| 春生まれだが、ずっと春という季節が好きではなかった。子供のころから、「好きな季節は?」と聞かれると「春以外」と答えていた。ほわーんとぬるま湯に浸かっているような、曖昧な気候が好きじゃなかったのだ。それに、今は大好きな花が、当時はあまり好きではなかった。花に寄って来るチョウチョや虫たちも苦手だった。これは今もだ。
「♪春は名のみの 風の寒さや…」。
誰もが知っている、文部省唱歌『早春賦』。この歌に敬意を評して作ったという山木康世の『さすらい(漂泊)』という歌がある。出だしは「♪春は名のみの 我がふるさと…」。今は故郷(札幌)を離れて暮らす本人が、故郷の春に思いを馳せ、懐かしむ歌だ。北海道の春は、梅も桃も桜も一緒に咲く。山肌にまだたっぷりと雪が残っているのに、里では桃が、町では桜が、庭では梅が咲く。みんな一緒に花開く。それは関東では考えられない不思議な光景で、彼岸の桃源郷とはこんなところか、とも思う。
2003年の春、そんな北海道真狩村の羊蹄山の麓の小さな小学校が閉校することになった。美原小学校という。その名の通り、周りを美しい大自然に囲まれた小さな小学校だ。校舎を取り壊すという1ヶ月前に、この体育館で山木康世がライブを行った。閉校ライブだ。真狩村は山木康世が幼いころの一時、住んでいたことがあり、美原小学校にも通っていたという。小さな小学校に全国から100人以上が集まった。この日のために作った曲『美原に会いにいこう』を全員で合唱してライブが終了、校庭の近くにみんなで記念樹を植えた。八重桜だ。
その後1年が経ち、2年が経っても「あのときの桜が咲いた」というニュースは伝わってこなかった。3年目の春もだめだった。でも、幹は少しずつだが天に向かって伸び、枝も増えたという。「いつ咲くんだろう?」「このまま立ち枯れになってしまうかも…」いろんな不安がよぎった4年目の春、2007年5月。
「咲いたよーー」と真狩村の友から連絡が来た。すぐに携帯のメールで写真が届いた。それはそれは小ぶりな八重桜がひとつだけ、折れそうなほど細い枝にしがみつくように咲いていた。あとから知るところによれば、八重桜の植樹はとても難しいそうだ。花を咲かせるとなるとなおさら。専門家は「よく咲いたね」と感心していた。思わず顔がほころんだ。
今年も桜の季節がやってくる。今年はどれだけ、花をつけてくれるだろう? 3月、4月とたっぷり東京の染井吉野を楽しんだあと、5月になったら、こっそり真狩を訪ねてみようと思う。
「♪記念樹を植えようー 美原に会いにいこう」
今は、春が大好きだ。
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